初めて釜山を訪れたとき、私はチヂミに恋をした。
こういうと大げさに思われるかもしれないが、
私はあの日からずっと、そのチヂミの味を探し求めている。
往復の高速船と宿だけのフリープラン。
マイペースな私は団体ツアーが苦手で、母とのふたり旅を楽しんだ。
地下鉄に乗ったり、繁華街を歩いてコスメや洋服を買ったり。
ホテルはオンドルで、多少古いが居心地のいい空間だった。
その日も歩き回ってへとへとに疲れて、いつの間にか夜になっていた。
おなかペコペコの私たちがとりあえずホテルを目指して歩いていると、
通り沿いの駐車場で屋台がポツンと営業していた。
屋台では、小さなスペースでおばちゃんが一人チヂミを焼いていた。
おばちゃんのただならぬ雰囲気と、思い出したように沸き起こる空腹感。
私と母は多少怪しみながらも、どちらともなく言っていた。
「買っていこっか。。」
言葉も怪しい私たちは、ありったけと思しき海鮮チヂミとキムチチヂミ、
トッポギを薦められるままに購入。
おばちゃんはじっくりその場でチヂミを焼いてくれた。
フライパンにしっかりと押し付け、ジュージューなる音と
焼き目のいい香りが食欲をそそる。
それからできたてを手際よく包んで渡してくれ、さっさと店じまいを始めた。
ちょうどお片付けに協力できたらしい。
ホテルの部屋に帰り、落ち着く間もなくパクつく。 もうお腹が限界だった。
「なにこれ、めちゃくちゃ美味しいやん!!」
母とワーワー言いながら、あっという間に完食した。
モチモチとパリパリの食感、生地の旨味。
たれは甘辛く、それまでに出会ったことのない味だった。
それ以来、私はチヂミを1番好きな食べ物として挙げるようになった。
フォーリンラブとはこのことか。私はそのチヂミに恋をしてしまったのだ。
あれから10数年。チヂミを出してくれるお店を見つけては行ってみるのだが、
あの時ほどの味には出会えていない。
旅情、高揚感、空腹感、期待していなかったが故のギャップなどなど。
あのチヂミには、本場の食材以外にも色んなスパイスが入っていたんだな。。
と思いながら、あの味を探し続けている。